野球未経験かあちゃんの記録 #02
努力の先で、野球を奪われた日
― 腰椎分離症と診断された時の私へ
【腰椎分離症 小学生・成長期の疲労骨折・3ヶ月の運動禁止】
この記事について小学5年生の秋、誰よりも素振りをしていた息子が「腰が痛い」と言い出しました。整形外科のレントゲン、大病院でのMRI、告げられた「腰椎分離症」という診断名と「3ヶ月、野球も体育もお休み」の診断。努力家の子が、努力ゆえに野球を奪われた日。野球未経験の母が、診断の日の自分に伝えたい言葉を書きます。
息子(小5・秋)ねえ、お母さん。腰、なんか痛い
ある日の練習帰り、車の後部座席から息子が言いました。
小学5年生の秋。
大きな怪我とは無縁だった我が子の、初めての「痛い」でした。
その日から数週間後、私たち親子は、病院の診察室で、「腰椎分離症」という言葉を聞くことになります。
「3ヶ月、野球も体育も、お休みしましょう」
息子も、私も、泣きました。
今になって思います。
あの日の涙は、序章だったのだと。

・ ・ ・
「腰、なんか痛い」と言い出した日
息子は、ケガとは無縁の子でした。
体が大きく、力も強い。
チームではキャッチャーで、指導者が「こんなに上手いキャッチャーは初めてだ」と褒めてくれていた頃でした。
その息子が、ぽつり「腰が痛い」と言ったのです。
——成長痛かな。
——練習でちょっと張ってるだけかな。
野球未経験の母には、「腰が痛い」と「疲労骨折」が、どうしても結びつきませんでした。
お風呂で温めて、湿布を貼って それで治ると思っていました。
でも、何日経っても、痛みは引かない。
階段を降りるとき、息子の顔が少しゆがむ。
バットを構えると、ふっと息を止める。
「これは、ちゃんと診てもらおう」
家の近くの整形外科に連れて行ったのは、痛みが出始めて1週間ほど経ってからでした。
レントゲン、そして大きな病院でのMRI
最初の整形外科で、まずレントゲンを撮りました。
先生は画像を見ながら、慎重な口調でこう言いました。
「ちょっと、レントゲンでは分かりにくいので 大きな病院で、MRIの検査を受けて下さい。」
— MRI?
聞き慣れない言葉。
数日後、紹介状を持って、大きな病院へ。
MRIの大きな機械を初めて見た。
あんなに動くのが好きな子が、私も知らない機械に入っていく。
それだけで、胸の奥が、ぎゅっとなりました。
検査の後、データを持って再び病院へ。お医者さんが画像を示しながら、静かに言いました。
「初期の腰椎分離症ですね。腰の骨の、疲労骨折です。
3ヶ月、野球も体育も、お休みしましょう。」
——疲労、骨折。
息子の顔から、すっと、表情が消えました。
帰りの車の中で、二人とも無言でした。
信号待ちで、ミラーごしに息子を見たら、窓の外を向いて、肩が震えていました。
私も、もう、こらえきれませんでした。
「素振りのやりすぎ」と告げられて
診察のとき、先生はこう言いました。
先生成長期のお子さんで、野球やサッカーをやっているお子さんに、わりとよくある怪我なんですよ。腰を反らしたり、ひねったりする動きの繰り返しが、骨に少しずつ負担をかけて、疲労骨折を起こします。
特に野球は 素振りのやりすぎ というケースが多いですね。
——素振り のやりすぎ。
それしかない。
夕食の前に、リビングで素振り。
お風呂の前に、トスバッティング。
野球だけは誰にも負けたくない!
自分でノルマを決めて、毎日欠かさず。
練習したら? と言ったことはありません。
毎日毎日。 素振りをしないと気持ち悪いと言っている子でした。
その努力が、いま、野球を奪っている。
「上手くなる」と信じて疑わなかった練習が、
誰よりも頑張っていた結果が、
3ヶ月の運動禁止。
正解か、不正解か、なんて、当時の私には判断できませんでした。
ただ、息子が誰より頑張っていたことは、紛れもない事実でした。
復帰までの3ヶ月、息子はベンチの隅で過ごしました。
道具を並べ、声を出し、給水を運ぶ。
試合に出ない日の方が、立派な姿だったかもしれません。
そんな息子の姿に「怪我したら、意味ないよね」という子も、正直、いました。
たぶん、悪気のない一言だったのだと思います。
それでも、その夜も悔しくて泣きました。
——意味がない努力なんて、ない。
そう、自分に言い聞かせるのが精一杯でした。

「腰椎分離症」ってなに? ふつうのママが、知っておけたらよかったこと
少しだけ、当時の私が知らなかったことを、一般的な情報として整理しておきます
(※我が家がお世話になった当時の話+公開情報をもとにしているので、症状や治療の判断は必ず医師にご相談ください)。
― 一般情報メモ ―
- 腰椎分離症とは:背骨の腰の部分(腰椎)の、椎弓(ついきゅう)というところが、繰り返しの負担で疲労骨折を起こしてしまった状態のこと。
- 多い年代:小学校高学年〜高校生の成長期のお子さんに多いそうです。成長期の骨は、まだ柔らかい部分が残っていて、繰り返しの負荷に弱いとされています。
- 多いスポーツ:腰を反らしたり、ひねったりする動きが多い競技。野球、サッカー、バレーボール、新体操、などが挙げられます。
- 検査:最初はレントゲンを撮ることが多いそうですが、初期の分離は、レントゲンに映りにくいこともあるそうです。MRIを撮ると、より早い段階で見つけやすくなる、と聞きました。
- 早期発見:早く見つかるほど、骨がくっつく可能性が高いとされています。逆に進行してしまうと、骨が癒合せず「分離症」として残るケースもあるそうです。
- 受診の目安:2週間以上、腰の痛みが続くようなら、一度整形外科を受診するのが安心と言われているようです。
我が家の場合は、息子の症状を診てくださった先生が、すぐにMRIを撮るよう指示してくださったことで、比較的早く診断にたどり着けました。
これは、たまたまだったかもしれません。
野球かあちゃんに伝えたいのは、ただ一つ。
「子どもが腰が痛い」と言ったら、軽く見ないで、早めに検査して診てもらってほしい。早く治せば悪化しない。早く復帰できる。
リハビリ室で、初めて聞いた言葉
野球を休んでいる3ヶ月の間に、私は何度も「腰椎分離症」を検索しました。
夜、子どもたちが寝た後の食卓で、スマホの画面を見つめていました。
そこで、初めて知った言葉がいくつもありました。
インナーマッスル。
体幹トレーニング。
速筋と、遅筋。
ストレッチで 可動域を広げる。
それまで息子がやってきたのは、「振る・打つ・走る」の、力で押す練習ばかりでした。
リハビリで通った場所では、地味な動きをひたすら繰り返すことを教わりました。
姿勢を保つだけのプランク。
お腹の奥の筋肉を、ゆっくり使うトレーニング。
体を伸ばしきる、ストレッチ。
息子は最初、つまらなそうにしていました。
派手な打球の感触も、グラウンドの土の匂いも、ここにはないのです。
それでも、続けるしかありませんでした。
そして、これも当時の私はまったく予想していなかったことなのですが ——
この地味なトレーニングが、後々、息子のバッティングを、もう一段階、押し上げてくれることになります。
その話は、また、別の記事で書こうと思います。
・ ・ ・
あの日の私への手紙
診察室で、息子の表情がすっと消えたあの瞬間に、もし、いまの私が立ち会えるとしたら。
あの日は、本当に苦しかったね。
大丈夫。
大丈夫。息子は、ちゃんと、戻ってくるよ。
あなたが「すごいね」と褒めてきた素振りは、無駄なんかじゃなかったよ。
ただ、休む時間が、少し必要だっただけ。ベンチの息子の姿は、誰よりも立派だよ。
その3ヶ月で、息子は野球の上手さ以外のものを、たくさん身につけるよ。そして、あなたはこれから、「インナーマッスル」とか「体幹トレーニング」とか、新しいことをいっぱい覚えるよ。
地味なトレーニングが、長い目で見たら、息子の体をさらに強くしてくれることを、知ることになるよ。痛みのSOSを、ちゃんと聞いてあげられた自分を、褒めてあげていいんだよ。
早く病院に連れて行けて、よかったよ。
休ませることは辛かったよね。あの日の涙は、無駄じゃない。
ちゃんと、息子の野球と心を成長させてくれるからね。
― 今日のメッセージ ―
痛みのSOSを聞いて 休ませよう
努力は、無駄にならない。
形を変えて、その子を絶対強くしてくれる。
― シリーズ予告 ―「腰椎分離症」シリーズ、これから少しずつ書いていきます。
リハビリの地味な日々、何度もやってきた再発、ピラティスとの出会い、そして成長期が終わった日まで。
よかったら、また読みに来てください。
※ このブログは、特定の医療機関や治療方針を推奨するものではありません。症状の見立てや治療の判断は、必ず専門の医師にご相談ください。「我が家の場合」の振り返りとして読んでいただけたら幸いです。

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