あの頃の私への手紙 #04
野球未経験かあちゃんの記録 #04|グラウンドの隅でゲームをしていた子が、キャプテンになった日
グラウンドの隅でゲーム機を握っていた次男が、6年生でキャプテンになった。
「この子は何が向いているんだろう」と悩んでいた頃の私に、今なら言える話です。
次男は、長男とは全く違う子でした。
小さな頃から体を動かすのが面倒くさい。
グズグズする。
友達に意地悪されてもついていく。
兄は「素振り」「坂道ダッシュ」を自分でノルマを決めてこなすような子だったので、なおさら違いが目につきました。
地域の育児サークルに連れて行っても、他の子より動きがゆっくり。
比べちゃいけないのはわかっていても、、ね。
父は単身赴任中だったので、兄の野球について行く。そんな週末が、長かった。
兄は野球チームに入って、どんどん頭角を現していく。
次男はグラウンドに行くたびに、隅っこでゲーム機を握っている。
「この子には、いったい何が向いているんだろう」
そう思いながら、でも答えは出ないまま、週末はまたグラウンドへ行く。
今思えば、答えはもう、そこにあったのですが。
兄の試合に連れていくうちに、グラウンドで面白いことが起きていました。
練習の合間、暇そうにしている次男に、保護者のお父さんたちが柔らかいボールで遊んでくれるようになっていたのです。
「どれどれ、投げてみな」
「おっ、いいじゃないか!」
へたくそでも褒めてくれる。
全力で付き合ってくれる。
みんな我が子には厳しいのに、よその小さい子にはとっても甘い。
子どもの目線で、一緒になって楽しんでくれる。
次男が、少しずつ変わっていきました。
気がつくと、自分からキャッチボールをしたがるようになっていた。
グラウンドに行くのを、嫌がらなくなっていた。
そして、ゲーム機が、カバンの底に沈んでいくようになっていた。
「いい大人が周りにいると、子どもは変わるんだな」
周りにいたお父さんたちが、次男の最初の野球の先生でした。
次男は野球チームの体験会に参加するようになりました。
最初は体験会のサクラでしたが、、
1回、2回、3回……。
回を重ねるごとに、息子の表情と動きが変わってきました。
コーチに冗談で「体験は5回までよー」と言われるほど楽しんでいました(笑)。
そして小学1年生の夏。
体験会が終わり、グラウンドに入るのを止められた次男が、
「お母さん。僕も野球したい」
嬉しかったのは、本当です。
でも正直に言うと、心の中でため息もついていました。
——今、小学4年の兄が2年半後に卒部して、さらにプラス3年かあ……。
ワンオペで3人を抱えていた当時の私には、送迎や当番があと5年半。
その重みが、リアルに分かっていました。
でも、息子の顔を見ていると、そんなことは言えませんでした。
本当に、嬉しそうに泣いていたから。
入部初日の帰り道、次男は後部座席でずっとニコニコしていました。
窓の外を見ながら、小さく鼻歌を歌っていた。
——ああ、この子はここに来たかったんだ。
「プラス3年か」なんて思ったことは、息子には秘密にしておこうと思いました。
次男が入部してからも、すぐに上手くなったわけではありません。
打撃はいまひとつ。
足も速くない。
とにかくエラーをしまくった!
気合いだけはあったのですが、、、。
でも、変えてくれたのは、兄でした。
グラウンドで毎日見ていた兄の姿。
ホームランを打つ背中。
全力でボールを取りに行く姿。
「兄ちゃんみたいになりたい」と口には出さなかった。
でも、ずっとそこで兄のプレーを見ていた。
ベンチの応援は全力でやっていた。
ボールボーイも全力でやっていた。
兄の背中は、私がどんなに声をかけても変わらなかったことを、変える力がある。
そう気づいたのは、ずっと後のことでした。
次男が6年生になる年、何かが変わりました。
コントロールのいいピッチャーに育っていた。
球は速くないけど、タイミングを外す技を身につけて、なかなか打たれない。
牽制アウトを何度も取られたあの子が、チームでダントツの盗塁王にもなっていた。
そして、キャプテンになりました。
「弱いだろう」と周りから思われていた代が、リーグ優勝しました。
いつも笑っていた。
自信がないから、偉そうにしない。
怒られてる話は右から左へ?。。。失敗しても、切り替えが早い。
その笑顔が、チームの笑顔になっていた。
試合を見ながら、ふと思いました。
「グラウンドの隅でゲームをしていたあの子が、ここにいるんだ」と。
じんわりと、温かいものが込み上げてきました。
「この子は何が向いているんだろう」と、グラウンドの隅を眺めていたあの頃の私へ。
答えは、もうそこにあったよ。
グラウンドの隅でゲームをしながら、
この子はちゃんと、見ていたんだよ。お父さんたちのキャッチボールも、
お兄ちゃんのホームランも、
先輩たちの声も、全部。急かさなくてよかった。
決断を待っていてよかった。「あと3年か……」ってため息ついたこと、
息子には内緒にしておいてね(笑)。この子は、キャプテンになるよ。
笑顔で、チームを一つにするキャプテンになるよ。
※「最強の兄を持つ弟の話」は、これからも少しずつ続きます。よかったら、また読みに来てください。
過去の記事は、こちらから。


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